ワイルドで行こう

3.こんなに愛し合っているのに、赤ちゃん……


 三好デザイン事務所を訪問した夕。龍星轟、閉店まであと三十分。これぐらいになると、店頭に銀色のフェアレディZが現れる。
「ただいまー」
 運転席のウィンドウが開くと、そこには店長の婚約者。店先で顧客の車を磨いていた矢野じいが途端に笑顔になる。
「おう、琴子。おかえり」
「お疲れ様。矢野さん」
 挨拶を交わす二人を英児は事務所の社長デスクから眺める。そんな彼女が運転席から龍星轟全体をきょろきょろ見渡している。最後、彼女が視線を留めたのは事務所、社長デスクにいる英児だった。
「ただいまー、店長」
 運転席から探してくれていたのは、夫になる男だったらしい。見つけて手を振ってくれ、英児も思わずにっこり振り返してしまう。
 すると。社長デスク前のいる経理担当の後輩がニンマリにやにやしている顔。
「本当に良かったね~、タキさん~。今度、昔の仲間で『結婚祝い』してやりますからね。シノと打ち合わせ中だから」
「うっさいな。んな大袈裟にしなくていいんだよ。いつもの飲み会でいいんだよ」
「もうね。俺とシノのところに、『タキ兄がついにタイプの女の子を捕まえたって聞いたけど本当か』という問い合わせがバンバン」
 眼鏡の後輩が携帯電話を片手に持って指さした。
「琴子さんを知っているのは、俺とシノだけだからね。俺達二人で『すっげえタキさんタイプ、ど真ん中』と触れ回っておいたから」
「余計なことすんなよっ」
 だが高校時代の後輩である武智がさらに意味深な笑みを浮かべた。
「香世ちゃんにも言っておこうか?」
「お、お前。そんなことしたら、ぶっとばす!」
 本当にやりそうな後輩に詰め寄ろうとしたら、そんな英児のわかりやすい行動など分かり切っている武智が急に事務所外を指さして叫んだ。
「あ、琴子さんが車庫入れするよ!」
 それを聞いて英児もハッとして事務所を飛び出した。
『そうそう、琴子ちゃん。あー、もうちょっと左だったかなー。あ、ストップ!』
『そのままじゃ、シルビアにぶつかっちまうよ。もう一度、前に出て修正した方がいいな』
 ガレージから整備士の兵藤兄貴と清家兄貴のひやひやする声が聞こえ、英児は急ぐ。
「わ、琴子。待て!」
「あ、店長来た来た」
「大丈夫、ちゃんとやってるよ」
 だがゼットのトランクが、隣に駐車しているシルビアと接触寸前だった。
 それを見て、英児はすぐさま彼女が運転しているフェアレディZの助手席へと乗り込む。

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