ワイルドで行こう
彼女はいつもそう。普段は清楚な顔で『英児さん』と呼んでくれるのに、女の顔になると――。
「あん、ああん。エイジ、エイジ……」
男と愛しあう女になると、そう呼ぶ。
既に彼女は猫のような格好を英児に望まれ、背を反って男がほしがるものを無条件に差し出してくれている。そこで遠慮する野獣英児ではないから、迷うことなく牡の塊を押し込んで黒髪の猫を戴いてしまう。
しかも素で彼女の中に入り込んでいた。もうここのところ、ずっとそうしている。結婚しようと約束してからずっと……。
二人で望んでいることだから、英児も全力で彼女の身体の中に入り込む。『ううん、あうん、ああん。エイジ、エイジ』。琴子はひたすら喘ぐ。シーツに頬を埋め両手いっぱいに握りしめ男の責めを受け入れて堪えている従順な姿を、英児はずっと上から見下ろしていた。
時々、彼女が言う。『私、英児さんに抱いてもらって、やっと大人の女の身体になれたと思っているの』と――。そう言われると、英児も同じように思うことがある。
初めて抱いた入り江のモーテルでの夜。英児との始まりのキス、初めて触れる相手の肌を知るための探り合い。それだけで彼女は熱く濡れてくれたが、英児は不安だった。彼女自身も口では言わなかったが、それまでの数年で襲った不遇に疲れ切って、しかもどうしようもないことで男に捨てられてしまって。今は女として直ぐには熱くなれないのではないか。まだ出会ったばかりなのに、勢いだけでここに連れてきてしまった。このまま英児が思うままに彼女の身体を愛し抜いても、彼女も熱くなってくれるのだろうか? でも『英児を愛したい』という彼女の唇はとても大胆で情熱的で、黒目も綺麗でじっと離さず英児を見つめてくれていた……。
それでも急激にならないようにと、灯台の光が通る部屋で時間をかけてじっくり彼女の柔肌を愛してあげた。その時、英児は大人しそうな彼女に呪文を唱えるように囁いた。『男と愛しあう時。女も貪欲に望むことは恥ずかしいことじゃない』。静かな彼女のことだから、今までも男の顔色を窺って女の性を押し殺してきたのではないか? そう思ったから英児から強引にリードした。『ほんとうの女を剥き出しにして、俺と愛しあってくれよ』と。そうして存分に愛しあっている最中、彼女の目が潤んだ瞬間を英児は忘れない。それが嬉しくて目を濡らしたのか、今までの辛かった日々を思い返しての涙なのか、または燃え始めた女の歓喜の涙だったのか、今でもわからない。でも英児はいつも彼女を抱く時は、あの可愛い涙を思い出してしまう。