ワイルドで行こう

「く、くすぐったいんだけど……」
 だが英児は『いつも通り』に愛撫する。琴子はここに黒子があると知っているだろうか? 自分だったら気がつかないかもしれないと英児は思う。そんな場所。こんな耳たぶをめくらないとわからないような首筋の小さな黒子なんて、本人が一番わからないところではないだろうか。
「ん、そこ……いつも、」
 しかし琴子も、英児がここを好んでいることをもう気がついている。だけれど、どうして好んでいるのかは、まだ判っていないようだった。
 その黒子を目印に彼女の首筋にキスをして、ちょっとだけ舌先で愛撫して最後にチュッと吸う。そこからいつも彼女の濃厚な匂いがする英児お気に入りの場所。そして彼女を見つけた夜、英児が色香を感じた白い首筋。だから初めて抱いた時も、その首筋を愛したいと黒髪をかき上げたら耳元にこの印を見つけた。
「あん、もう……。い、いかなくちゃ」
「あと少しな」
 彼女の耳の下、小さな黒子を彼女に見立てて最後に小さく舌先で舐めると、彼女が背筋をびくっと強ばらせる。
「あの、英児さん……いつもそこ、どうして」
 彼女と挨拶代わりのキスをする時も、二人でただたわむれる時も、そしてベッドタイムでも。英児が必ずそこをしつこく愛撫するので、琴子も気になるようだった。だが英児はまだ言わない。
「んー、ここ好きなんだよ。お前の匂いがするから」
「そ、そんなに?」
 本当の意味はもう暫く秘密にしておく。これは英児のマーキング。他の男に獲られないよう、俺の女に残しておく男の跡。
「気をつけて行ってこいよ。何かあったらすぐに連絡しろよ。俺、すっとんでいくから」
 背中から抱きしめている琴子の顎に触れ、強引に肩越し上へと振り向かせる。そして最後はこちらにもキッチリ刻印しておく。琴子が『んっ……』と漏らした声も唇の奥に英児は閉じこめてしまう。
 女らしい黒い彼女を抱きしめ、強いキスをして……。そして英児の男の手が、いつもどおり彼女の柔らかな胸をゆっくり揉んだ。唇を塞がれている琴子が僅かに喘ぐ声が漏れ聞こえた。
「く、くちべに……ついちゃ……」
 英児の口に塗ったばかりの口紅が付いてしまう――と言いたいようだが。
「お前の口紅、淡い色ばかりだからついたってどうってことねえよ」
 さらに濡れる声を儚くこぼす琴子の唇を強く吸う。
 きっと今夜も。こんな可愛い彼女が帰ってきたら好きなように襲ってしまうんだろうな……なんて。既に頭の中で黒い服を脱がして白い裸にしようとしている邪な妄想をしながら、彼女の淡いピンクの唇をご馳走になっているのも男の秘密。

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