ワイルドで行こう
「こういうのみると、男は多かれ少なかれ、『ときめく』のは当然だと思うんですよね」
洒落たデザイナーの男が、車へのときめきを語ってくれるだなんて。英児はそれだけで、笑顔でうんうん頷いてしまっていた。
「やっぱり。車屋の社長さんの愛車だけあって、エアロパーツもマフラーもホイールもこだわっていそうですね」
「もちろんですよ。走り屋野郎共に『こんな車に乗りたい』と思わせる車でありたいんですよ」
「なるほど。あの、このフェアレディZをスケッチしてもいいですか」
芸術肌の人間が側にくるのは初めての英児。作業姿を隈無く見つめられるのかと思うと、それはそれで面はゆいけれど。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
黒ブチ眼鏡姿の彼が、スケッチブックを開く。彼がパラパラとめくる途中に描かれているスケッチが英児の目に飛び込んできた。
「あの、そのスケッチ。見せてもらってもいいですか」
今度は英児から頼んでみる。雅彦が一瞬だけ躊躇ったのがわかったのだが。
「いいですよ」
すぐにスケッチブックを英児に差し出してくれる。それを受け取り、英児は描かれているものを眺める。
すべて女性用小物のスケッチ。花、果物、リボン、洋服、靴、化粧コンパクト、口紅、香水瓶。などなど。優しい色合い、か細い線で描かれた小物達。それを眺めているとなんだかとても身近に感じられた。その中のひとつ、小鳥の絵を見て英児はやっとその親近感はなんなのかを知る。
「これ、もしかして全部……」
雅彦もなにもかも分かっている顔で、英児が思っているとおりのことを言った。
「さすがですね。やっぱり……、琴子のことをよく見ていらっしゃるんですね。オーダーが『店長の奥さんのイメージで』と仰られたので……。彼女が好きそうな小物をスケッチしてイメージを膨らませていたんですよ」
予想通りだった。しかし英児はそれを雅彦の口から知り、僅かな胸の痛みを覚える。
『さすが婚約者の男。琴子のことをよく見ている』と言ってくれたが、それは雅彦だって同じだと感じた。英児だって一発で判った。すべてが『琴子っぽい小物』ばかりだったからだ。極めつけが『小鳥』。彼女が愛用している乙女チックな眼鏡ケースの模様に、とても似ていた。