ワイルドで行こう

 それでも琴子は元彼の作品を、こだわりなく選んでいた。わざと避けたわけでもなさそうで、男共は唖然とさせられてしまったのだが。矢野じいが一番最初にため息をついた。
「やっぱ琴子がいて良かったな。男共と女の子の感覚の違いはここにあり。本多君もよ、そこを分かっていて二種類用意したんじゃないか。龍星轟の男共が気に入りそうなレディスイメージ。だが琴子のような女の子が根っから乙女の気持ちで選びたいものとの感覚のずれが、これってことだな。俺達だけ選んでいたら、絶対にこの感覚は分からなかっただろう」
 矢野じいの説明に、兄貴達も頷いた。そして英児も……。ここで琴子と食い違う感覚を目の当たりにしてしまう。
 いや、違う。琴子のために作ろうと思ったステッカーでもあるが、なによりも『女の子が欲しいと思ってくれるステッカー』が前提。琴子はそれを良く理解してくれている。だから敢えて、龍星轟の男共と共鳴はしなかったということなのだろう。
 しかし、これで決まったことがある。
「どちらにせよ。俺達も琴子も、本多君のデザインで一致ということでいいな」
 そこは龍星轟の誰もが揃って頷いた。
 課題は残しているが、デザイナーは決定。数日後、英児は三好デザイン事務所とステッカーオーダーの『本契約』を結んだ。
 もちろん。このオーダーを請け負ってくれる責任者、デザイナーチーフは本多雅彦だった。
 
 そして英児は最後、唸っていた。
 くっそー。前カレ。いい仕事すんな。
 敢えてまったく異なるスタイルのステッカーを用意していたところ。恋人としてはよく見てくれなかったと彼女に思われるほど仕事優先だった男が、デザインでは元カノの心を一発で掴んでいたのだから。
 これ、内心。畑違いの仕事をしていると分かっていても、英児は悔しくて仕方がなかった。

 

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