ワイルドで行こう

 それから暫くして、三好デザイン事務所からデザイナー一同のサンプルがあがってきた。
 英児の社長デスクを全員で取り囲み、琴子が持って帰ってきたサンプル画を拝見する。
 一発で気に入ったものがあった。
 だがその感覚は、パンサーサンプルの時と同じだった。何度見ても同じ。きっとこれは彼の作品に違いないと確信できる。
 『店長の奥さんになる琴子の前カレが混じっている』という先入観を、従業員にも漏れなく無くすようにしてくれたのか。ジュニア社長が再度、作者であるデザイナーの名がすぐには分からないよう作者名のところを白いシールで隠してくれている。それでも英児にはすぐに『彼の作品だ』と一目で分かってしまう。
 答も決まっていた。一発でそれを気に入り、そして、龍星轟の男共全員が迷いなく英児が選んだ作品と同じものを選んだ。
 その作品の作者名は誰か、作者名を隠してあった白いシールをめくると『本多雅彦』。やっぱり彼の作品。英児のイメージに近いものを、きっちり描いてくれていた。
 そして、琴子は……。
「私はこれがいい」
 なんと、彼女だけは男共とは違うものを選んだのだ。
 だがそれも作者名を開けてみると『本多雅彦』の作品。
 男達と彼女が選んだ二種の作品は、同じ雅彦が描いたものでも、かなりの違いがあった。
 男共が選んだのは、黒背景にぼんやりと優しくぼやける花の天の川の上を、同じように優しくぼやける紫の龍がゆったり昇っているもの。夜の優しい龍、色気があって華やかで男共は満場一致だった。
 しかし琴子が選んだのは、白地に花降る街の中を、黒シルエットのスタイリッシュなスカートスタイルの女性と、緑色の龍が彼女の横に寄り添うように並んで浮かび、颯爽と『ふたりで』散歩をしているようなもの。モダンでどこかレトロ、そしてメルヘンチックなものだった。

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