ワイルドで行こう

9.夫妻になろう。


 幾日かが経ち、香世が車を取りに来る日がやってくる。
「今日、香世ちゃんが来る日だなあ……」
 実家近所の幼馴染みだからこそ、気心知れたつもりで過去ある男性の結婚報告も平気でした武智だったが、あれから溜息が多い。
 なんでもサバサバと笑顔で受け流す武智が、元気がないのは余程のこと。そして香世の名を聞いただけで、英児も顔をしかめてしまう。
「ったく。一緒に過ごす家族がずっと側にあるっていうのによー。なんかあれからずっとムカムカすんだよ、俺」
 むすっとすると、武智は逆に事務デスクで頭を抱え項垂れてしまう。
「はあ、俺。矢野じいみたいに気がつかなかったからさあ。十五年も前のことじゃん。しかもふったのは香世ちゃんのほうだったのに。もう笑い話レベルだと思ってたんだよね。まさかのまさかだよ。もう。馬鹿みたいにタキ兄が結婚すること言わない方が良かったかも」
 いつもの『おふざけ』のはずだったのに、笑い話で終われなかったことを武智が悔いている。
「いや。お前は悪くないよ。矢野じいが言うように、笑い飛ばせないなら、ここに来ちゃいけなかったんだ……」
 気にしないように言ってみると、だからこそ、普段はムードメーカーとして冗談を上手く言えるはずの男が上手くできなかったことで、武智はしょんぼりしていた。彼が笑い飛ばさない方が、英児は焦ってしまう。香世とは近所の幼馴染みで気易く付き合ってきた分、思いもよらない『女心』に触れショックだったようだ。
「まあ。気にすんなよ。俺からも、なんとかやっておくからよ」
 タキ兄らしく。そういうと、彼がやっといつもの眼鏡の笑顔になってくれた。
「女ってわかんないねえ」
「武智でわかんないなら、俺はもっとわかんねえよ」
「琴子さんには、話していないんだよね」
「話すかよ。あっちが同級生の気分で笑い飛ばしてくれるなら、紹介するけどよ」
 だよね。と武智も『女の気持ち』が表面化した以上、二人は会わせない方が無難と同意してくれる。
 だけれど――と、英児は続ける。
「でもよ。たぶん、琴子……なんとなーく気がついてるぽいな」
「マジで? どーして。あ、タキ兄が見送る時、ちょっと雰囲気が暗かったのを二階から見ていたとか?」
「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。でもよ『知り合いか』と聞かれたから、『同級生』とだけ答えておいたんだよな」
「うわーうわー。琴子さん、絶対に何か感じているはずっ」
 英児もそう思っている。

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