ワイルドで行こう

「俺もだんだん解ってきた。琴子が黙ってなにかを感じ取って、でも、『話題にしない方がいい』と様子を見て俺に気遣っている時の表情とか、仕草とか、態度ってやつ」
 もっと聞かねえのかよ? と構えていると『そう。久しぶりに会えたの? 良かったね』と笑顔で流された時に、そう感じたのだが。
「へえー。やっぱり同居すると、そんなことがわかってくるんだ。だんだん夫妻らしくなってくるんだなあ」
「お。そうかな」
 なんて。琴子と夫と妻ぽく見えると思うと、英児もなんだか照れるし嬉しかったりする。
「まあ、とにかく。どうせ今日、会うわけだから。その時な」
「いやー。香世ちゃんもいい歳した人妻なんだからさ。笑い飛ばしてお終いって気もする」
 『そうだといいな』――と武智が再びため息。
 しかし英児も『笑い飛ばしてくれるといいんだけどな』と思っている。ただそれで流して終わって良いのかどうか――とも、思っている。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 昼下がり。ピットで顧客の車をチューンナップしているところ。
「英児君」
 その声が聞こえ、タイヤ交換をしていた英児はその手を止め彼女を見る。
「おう、来たか。車、外にあっただろ。綺麗に磨いておいたからな」
「うん、見た。ありがとう。英児君が磨いてくれたの」
「ああ。水アカ取りもしておいた。これ、サービスな」
「ありがとう……」
「ちょっとかかるからよ。中で待ってろよ」
 だが香世からピットに入って英児に近づいてきた。
「あれ。ボウズは」
 今日は髪を束ねず、サラサラと肩先で黒髪がなびいている。綺麗にメイクをしていることにも気がついてしまう英児。そしてこの前より大人っぽい黒いフリルのブラウスをデニムパンツに合わせていた。
「うん。実家に預けてきた。帰りに街に出てクリスマスの買い物をしようと思って」
「子供のプレゼントかよ」
「そんなところ」
 ちょっと寂しそうな顔に見えるので、困ってしまう。

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