ワイルドで行こう

 用意するってなんだ。と、英児は目を丸くしたのだが。武智は笑顔ながら真剣で『マスターのお店でしようよ。教会じゃないから、タキさんと琴子さんで並んで歩いたらいいじゃないか』なんて。
 それを琴子に告げると、彼女も困るかと思ったら『嬉しい』と喜んでくれた。
 本物の教会なら代役を立てても、英児が並んでも、どうあっても『お父さんじゃなかった』と思う寂しさが募ったところだろうが、そこはざっくばらんと砕けた喫茶店で気心知れた身内のみに見守られての、入場をかねたヴァージンロードなら歩いてみたい――と。
 琴子の嬉しそうな返答に、何故か武智がニンマリ。『任せて』。フラワーシャワーがいいかな、ライスシャワーがいいかな。なんて、そこまで聞いてくる。そして琴子も『フラワーシャワー』と笑顔で答えると、また武智がニンマリ。『任せて』と。
 琴子はもう、それだけで幸せそうだった。
 親族を乗せたワゴン数台と共に、英児は一足先に漁村に到着。店先に降りるなり、英児は驚く。
 店の横、海が見える駐車場に、鉢植えを並べた道が出来ている。武智が作ってくれたヴァージンロードだった。
 その花の道は晴れた海に向かっていて、行き着く先には白いクロスで整えられた店のテーブル。そこにも赤いリボンが結ばれている小さなグラス、鉢植えと同じ紫や黄色桃色など、とりどりの花が生けられている。
 そのテーブルの側には、デキャンタのガラス容器を準備しているマスター。到着した英児を見つけてくれ目が合う。
「英児君。本日はおめでとうございます」
 マスターも今日はタキシードを着ていたので、英児はびっくり。それでもエプロンはいつものエプロン。かつてはそのタキシードを着て、仕事をしていたのだろうかと思わせる慣れた着こなしを感じるほど。
「おっさん、いや、マスター。今日はお世話になります」
 引き受けたからには――と、琴子から依頼されてからのマスターの準備は想像以上の手際とサービスだった。
 琴子も『手伝う』と、何度もこの店に自分から通ってメニューの相談に食材選びに出かけていた。なのに――。
『せっかくだから、ウェディングケーキは僕に任せてくれないかな。僕からのお祝いプレゼント。ちょうど、ツテはあるんだよね』
 琴子も戸惑っていたが、必要以上には踏み込んでこない距離感を保つあのマスターが『是非是非』と押してきたほど。それは琴子も英児も嬉しい。だから結局、お任せして甘えることにしてしまう。

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