ワイルドで行こう



「まあでもこれで、天国の母ちゃんも安心ってわけだな」
 母親にも偏屈だった父親がそんな言葉。
 もうだめだ、泣きそうだった。もしかして親父がこまめに様子を見に来てくれるようになったのは、母親の代わりなのだろうか? なんて思ってしまって。
「じいちゃーん、これ!」
「ぼくもこれ!!」
 さっそく、子供達が欲しいものを手に祖父ちゃんのところへまっしぐら。
「どれどれ」
 だけれど、そこで英児と父親は子供達が持ってきたものを見て互いに顔を見合わせてしまう。
 二人の手には、やっぱり車。長男の聖児はそれらしいが、小鳥は……。
「なあ、小鳥。この前、人形のドレスを探すってママと相談していただろ。あれじゃなくていいのか?」
 つい女の子らしく――と口を挟んでしまうのだが。
「ああ、ええんじゃよ。ええよ、ええよ。小鳥、それ格好いいなあ。なんて車なんじゃ」
「フェラーリ」
「おー、いつか乗れたらいいなあ」
「ううん。小鳥、ハチロクに乗るんだ。でもハチロクはどこにも売っていないんだよ。おもちゃのお店にもない車なんだよ」
 パパのガレージだけ! そういって飛び跳ねる娘。
  そこでやっと父親が英児に向かって溜め息。
「はあ。お前も覚悟しておけや。小鳥も聖児も、お前みたいにいつかぶっ飛ばすわ」
 それだけいうと、子供達の手を取って笑顔になる父親。
「さすが、車屋の子じゃねえ。よし、祖父ちゃんがこう(買う)たげるけんな」
 そうして三人でレジに向かっていく。
 英児も溜め息。うん、きっと俺も親父みたいに、いつの間にか子供達に影響を与えて『なにしよるんじゃー』とハラハラする父親人生が待っているんですね……と。

 

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