ワイルドで行こう



 それから数日後。龍星轟営業中、カミさんの琴子も出勤、子供達も保育園へ。いつもどおりの平日。

 英児もいつもどおり、ガレージで顧客の車を整備していると、なんだかぶるぶると弱いエンジン音が入り口で聞こえて止まった。
 作業の手を止めて入り口を見ると、そこには薄汚れた軽トラが。
「親父」
「おう。ちょっとそこを通ったんだわ」
 またかよ。と、英児は癖でつい顔をしかめるのだが。しかし。
「この前はありがとうな。一日、助かったわ」
 琴子も後で、義父も子守を手伝ってくれた知って、とても驚き――。というか『丸一日。英児さん、お義父さんと喧嘩別れもしないで一緒にいられたのね』ということに非常に驚いていた。そして義父にはすぐに感謝の礼を述べ、あの後は親父の野菜を使った琴子の手料理で一家で夕食を共にした。
 そんな一日の後だからこそ。
「今日は子供達いないんだけど、どうしたんだよ」
 すると父がちょっと照れくさそうに、降りた軽トラを触る。
「なんか、いろいろ前と違う気がするんだわ。ちょっと見てくれんかのう」
 それは車屋になって初めてのことだった。
「わかった。見るから、店で待っているか。それとも、二階で待っているか」
「うん。二階で待ってるわ」
 そして英児は父親に自宅の鍵を渡し、笑顔でいう。
 任せてくれ、親父。軽トラ、もっと走るようみておくよ。
 あの時の軽トラではないけれど。でも英児の心を走らせるようにした車だから。



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