ワイルドで行こう



「先生、誠に申し訳ありません。親父、娘共々、ご迷惑かけます」

 小鳥の前にいる教頭先生に深々と頭を下げた。だけどその次だった。

「おら、オメエ、こっちに来いや」

 背丈のある父親の手先が、自分より小柄な教頭先生の肩をすり抜け、ガシッと小鳥の胸元を掴みあげてきた。

 もう小鳥は停止状態。

 もちろん、言い返したいこと沢山ある。
 でも、でも、親父さんのこの眼、この顔、そしてこの怒り方をされたら、娘の小鳥に対しての雛のすり込みと言えばいいのか、この状態に追い込まれると幼い頃から何も出来ない状態に追いやられる。

「わ、お父さん。待って、待って!」

 噂の『元ヤン親父』の襲撃。やっと一筋縄でいかないことに気がついた教頭先生の青ざめた顔。娘の襟元を締め付けんばかりの親父の大きな手に、今度は先生が掴みかかってきた。

 だけど、父・英児の勢いは止まらないし、そんな制止など聞こえていない。

「オメエ、余所様の大事な可愛いお嬢さんにどんな不幸を起こすところだったのかわかっているんだろうなあ!」

 うわー、お父さん。落ち着いて!
 滝田さん、せめて、そのお嬢さんと掴んでいる手、離してあげて。
 そんなお父さん。小鳥さんだって……。

 教頭先生だけじゃない。一緒に来てくれた日本史の先生も、職員室にいた女の先生も『これはただことじゃない。教頭だけでは無理』と集まってくる。

 そこで父・英児を制しようとよってたかって声をかけるのだが、父の目線は娘の小鳥から一切ぶれない。

 小鳥が見る限り、父にとって、いまここは『職員室』ではなく、『俺と娘がここいちばん向き合う大事な瞬間』になっているよう。

 そうなったらこの親父さんは後先構わず、まっしぐらに向かってくる。娘だからわかる、似ているからすごくわかる。だから一気に小鳥の額に汗が滲んだ。

「澄ました顔してねえで、言いたいことあるなら、言ってみんかい!」
「わ、わかっているよ。ほんとに悪かったと思ったから、彼女のお母さんにも会って謝った。こんな騒ぎを起こした自分の落ち着きなさも情けなく思っているし……、高校に入ったらお母さんに迷惑かけないようにしようと思っていたのに、こんなになって。お母さんにも悪かったと思ってる!」
「それ、マジで心底から言っているんだろうな?」

 眉間に深い皺を刻み込み、この上ない鬼父の眼力で睨まれた小鳥はコクコクと無言で頷く。

 だけど、そこで親父さんが小鳥の本心をあぶり出すようなことを言いだした。

「だったら。オマエの『落とし前』は、運転免許の取得は来年の五月以降だ。わかったか!」



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