ワイルドで行こう



「それから、その長い髪。長けりゃ女らしいってもんじゃない。肩の近くまで切ってすいて軽くした方がいい」
「もう~、そんなにすぐ変われないよー」

 大事に大事に伸ばしてきた髪にまで言及するので、小鳥はもうむくれていた。おじさんもくすくす笑って楽しそうだった。

 ブラインドの向こうの空が、少し陰りを見せ、雲が黄金色に染まってきた頃。雅彦おじさんの個室のドアからノックの音。

「本多君。小鳥が来ているって聞いたんだけれど」

 白いブラウスに、麻のタイトスカート姿の琴子母が顔を出した。

「うん。来てる」

 二人がそこで目を合わせて静かに微笑みあう。

「お邪魔してごめんなさいね」
「別に。良い気分転換に付き合ってくれたよ」

 途端におじさんの表情が、仕事の時の冷めた横顔になる。抑揚も平坦な返答で、今の今まで小鳥と笑いながら話していたおじさんではなくなった。

「小鳥。お母さんももうすぐ上がるから、一緒に帰りましょう」

 鞄を手にして、デスクのライトを点ける雅彦おじさんに振り返る。

「おじさん。お邪魔しました。またね」
「うん」

 元の本多デザイナーに戻ってしまったようだった。おじさんは鉛筆を手にすると、書きかけだった原稿用紙に向かい始める。

 冷たい横顔。母が恋人だった時、そんな顔だったのかもしれない。そう思った。

 

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