ワイルドで行こう




 紗英ちゃん、まだ仕事?


 携帯電話にそんなメールが届いた夏の夕。

「あ、琴子さん。紗英です。ちょーっと残業なんですよね」

 メールを打つよりかけた方が早い。デスクの目の前にある校正すべき原稿に向かいながら、琴子先輩に告げる。

 新聞社勤めの紗英。何年経っても不規則な生活を続けている――。

『そうなの。いつ頃終わりそう? 待っているから、うちでご飯食べない? 遅くても待っているから。今日はね、海鮮の鉄板焼き。シメは塩焼きそば。冷たいビールを準備しておくから』
「うわー、美味しそう。うん、じゃあ、頑張っていきます!」
『うん、待ってるね』

 すっかり車屋の奥さんになった琴子先輩の変わらない優しい声。それだけじゃない。

『さえちゃーん、まってるよー』
『たけちゃんも、まってるよー』
『まってるー』

 ママの電話の向こうから、可愛い女の子と男の子達の声。紗英は思わず微笑んでしまう。
 

 あの日。ハウスレストランから四人一緒に出て、四人で食事をした。それからのような気がする? なんでも四人で食べに行ったり、遊びに行ったり、出かけたりするようになった気がする?

「たけちゃんも待っている、だって」

 携帯電話を原稿の傍らに置いた紗英はふいに頬が緩んでしまった。

 こんな時、紗英はさらに思い出す。兄貴とお姉さんからの『ハッピー・トス』。ブーケとガーターベルトを同じ日に揃ってもらったんだよね……、と。

 また電話がぶるぶる震え、毎日耳にしているメール着信音。もう誰かわかって、紗英は笑顔のままパネルを眺める。

【 龍星轟で待っている 】



※ハッピー・トス 完※








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