ワイルドで行こう
 だが琴子も負けずに、彼の首筋に唇を寄せた。
「私も……。男っぽい動物のような匂い、感じている。初めてよ。こんなに男の匂いを感じるのは」
 本当だった。汗と体臭と微かなトワレの匂い。動物的な男の匂い。こんな匂いをこんなに鮮烈に感じたことなんてない。
 互いに分け合う『本能の匂い』。それを嗅ぎ合ったことを確認するように見つめ合う。互いの匂いを分け合った同志――。そんな気がした。
 だからもう、躊躇いはなかった。もう優しいキスは必要ない。互いの唇を奪って吸ってこじ開け、その奥の奥まで貪る口づけ。
 それだけじゃなかった。琴子を抱きしめながら唇を吸い続ける彼の腕は、琴子の素肌を探すようにして背中を撫で回している。だが、それだけでは気が済まなくなった男の手は、今すぐにでも女を裸にでもするような手つきで琴子の肩を丸出しにする。カーディガンもワンピース紐も、肩の丸みに沿ってするりと……。
 ちょっぴり強引で熱い彼の手。肌を求められたのだと思うと『あ……』と、喘ぐような声が漏れ出てしまった。
 その露わになった白い肩先を彼がじいっと見つめている。
「このまま、助手席に乗せて連れて帰りたい。遠く連れて行って……もっと……」
 剥き出しになった白い肩に、彼が吸いつく。何度も吸って唇で愛撫して離してくれない。もうそれは既に男に脱がされ、素肌を撫で回されている錯覚に陥るほど……。
 熱く灼けて身体の奥からとろけたものが溢れてくるのがわかる。そして甘い疼きに突き抜かれて漏れた吐息が雨上がりの風にさらわれる。
 少しだけ赤く染まり始めた青い紫陽花の花びらのように。琴子の肩先に赤い痕が残った夕。
< 61 / 698 >

この作品をシェア

pagetop