ワイルドで行こう



「すごかった」
 力無く呟いて、琴子から英児にキスをする。

 そうしてやっと英児が笑ってくれる。大きな手でやっと頼もしい兄貴の顔つきで琴子の頬をつつんで、今度は彼から口づけてくれる。

 今度は貴方の番よ。琴子を熱くさせてくれたから、今度は貴方が……。いつもならそこで琴子から引き寄せたり、英児がその続きをせがむのだが。

「琴子。明日……」

 頬を包み込んだまま、英児が真顔で琴子を見つめている。

「明日、なに」
「明日。俺が送り迎えするな。明日の夜、俺とでかけよう」

 明日は金曜。週末の夜は、二人で夜中までドライブすることは良くあることだった。

「うん。いいわよ」

 そんな話。後からでも充分なのに。どうしていま? 琴子はふとそう思ったのだが。

「明後日。お前の誕生日だろ。初めてだから、美味いもんでも食いに行こう」
「え、うん。有り難う。楽しみ」

 あら。この自宅で彼と二人きり。手料理でゆっくり楽しむのかと思っていた。そうしたら、英児はそんなことを考えている琴子を見通すように、じいっと琴子の目をみつめたまま。

「お前のことだから。俺が好きな料理をいっぱい作ってとか、考えていただろ」
「えっ。えっと……うん、それでもいいかなって……私は」

 そうしたら、彼が呆れた顔。あの眉間にしわを寄せる怖い顔を見せた。

「ったくよう。そんなことだろうと思った。もうそんなことも出来ないくらい連れ回してやる」

 お前、なんでも頑張りすぎ。自分の誕生日まで、俺の好き料理を作ってやろうってなんなんだよ。そうぶつぶつ言う英児が、まだ熱いままの琴子の肌を逞しい腕に抱き上げ、まだ力が戻らない足を再び開かれる。

 抱き上げられた琴子は、目の前の、大きな黒目の夫と見つめ合う。彼の怒ったような眼差し。あの元ヤンのガンを飛ばすという眼。夜桜の出会った時も、初めて抱き合った入り江の夜も。彼がここいちばんという時に見せる、男の眼光に琴子は射ぬかれる。

 そんな時、琴子の胸がぎゅうっと熱くなる。ほら、あの頃みたいに。この人と愛し始めた時みたいに。あの鮮烈な想いが弾けとぶよう。

「それで。明日もくたくたになるまで、お前を抱く」
 そういって。ついに英児が力強く、琴子の奥深くまで貫いてしまう。
「……んっ く……ぅっ」

 いちばん、熱くとけてしまう瞬間。いつも。だけど、今夜の琴子は少し違う衝撃が身体中に走った。

「いって。琴子……、痛てえ、だろ」

 抱き上げて男の塊で熱く貫いた妻を、すぐにシーツの上に降ろし寝かせその上から力の限り愛してくれる夫。その夫の腕に、琴子は爪を立てていた。しかもぎりっといつも以上にひっかいていた。

 そして、熱く愛されながらも琴子はもうくたくたになっていた。だって。貫かれてすぐ……。今夜、二度目。嘘、こんなことってあるの? こんなに……感じちゃうなんて。

 英児さんのせい。イチゴ、イチゴってエッチなことをなすりつけて、それどころか、あのドキドキする怖い眼で私を強く見つめてくれるんだもん。

 なのに彼は、こんなにくたくたに果てている妻のことを知らないで、まだ懸命に強く愛し抜いている。

 私、あの怖かった眼。いまは大好き。貴方が真っ直ぐに狙いを定めた時の、なにかを逃すまいと言う真剣な眼だって知っているから。

 

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