ワイルドで行こう



 そして今夜も――。
 
「もうたっぷり甘そうに濡れて」

 つるりと滑る太い親指の腹が溢れてきた甘い蜜を絡めて、意地悪く何度も転がす。そんな自分の指先を見ろしている夫が、いまにも頬張りそうな目つき。

 彼の喉仏がごくりと動いたのを琴子は見る。その時、琴子の背にじわりと汗が滲んだ。その先に間違いなく起こることを思い描いて、琴子はもう感じてしまっている。

 その予感通り。英児は、琴子の両足を掴んで大きく開いた。琴子が許して自ら開けたようなものではなく、本当に『夫の俺だからしてもいいよな』とばかりに好きなだけ大きく開かれ……。

「や……」

 茂みの奥が、ねっとり熱く湿っていく感触。それが何度も行き来すると琴子はもう……。その間に激しく侵入してきた男の黒髪をひっつかんで悶えた。

 それまでの愛撫なんて……。いまされていること、食べられていることは、指先で吟味されていた時とは比べものにならないほどの灼ける切なさが隅々までじんわりと広がっていく。いっぺんに肌が熱くなり、今日琴子が使った石鹸の匂いがぱあっとそこら中に立ちこめる。

 夫は無言のまま、容赦ない。それは夫が知っているから。これだけのこと、こうやれば、女房があっという間に……。身体中を開いて、花咲くからと。もう何度も彼はそうして、琴子の身体をイチゴを頬張ってきた。

 その通りに、夫の唾液なのか自分がこぼした蜜なのか。そこがくちゃくちゃと滴る頃、琴子はそっと背を反り、儚い声を熱くこぼして力尽きる。

「琴子……」

 今夜も妻は、俺の責めを最後まで受け入れてくれた。そんなふうに『ちょっとやりすぎたかな』なんて顔を、英児は時々見せる。申し訳なさそうに、こんな時になって『俺のこと、イヤになったか』なんて不安そうな眼差しで、琴子の湿った前髪をかき上げ顔を覗く。

 そんな夫の顔をみて、今度は琴子が女の素肌に彼を抱き寄せる。彼の首に抱きつくと、そのまま彼も覆い被さるように汗ばんだ肌を琴子の上に重ねてくれる。




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