ワイルドで行こう
「え、琴子。お前の知り合い?」
 社長に聞かれて、琴子はどう説明すればよいかと混乱する。
 まだ恋人とかそんなんじゃないし、どう言えばいいの? 迷っている琴子に構わず、彼がこちらへと手を振ってくれる。
「琴子さん、お疲れ。迎えに来た」
 というか、滝田さん、『嬉しいけど』いつも驚かせすぎ!
 向こうがはっきりと『彼女を迎えに来た』と言ったので、社長も唖然とした顔で琴子を見た。
「あの……。そう、知り合いなんです。彼に送ってもらいます。お、お疲れ様でした!」
 なんの説明もせず、琴子は上司を放って駆けだしてしまう。
 今は今は。まだそっとしておいて。あとで明日でもなんとでも事情を説明するから。『ごめんなさい、社長』。きっと心配するだろうから――。まるで心配性の年が離れた兄から逃げ出すような感覚。
 白い夏のミュールで琴子は銀色の日産車まで走る――。
 最初は社長から逃げ出した心苦しさいっぱいだったのに。煙草をくわえて笑っている彼の顔を見たら、もう……。琴子の気持は、彼の煙草の匂いがする胸の中に飛び込む、そんな気持で走っている。
「どうして私の会社がわかったの?」
「どうしてかな」
 彼の目の前にたどり着くと、すぐさまノースリーブの肩に腕を回して抱き寄せてくれた。
 そしてそのまま琴子を助手席へとエスコートしてくれる。
「これも滝田さんの車?」
「そう。日産車が好きなんだ。乗って」
 開けてくれた銀色のドア。琴子は迷わずに助手席のシートへと乗り込んだ。
 ドアを静かに彼が閉めてくれる。今度、彼は車の後ろへと回って運転席ドアへ移動……するのかと思ったら。どうしたことか彼はジュニア社長が佇んでいるところへ行ってしまった。
 『私の上司になにを言うつもりなんだろう?』。琴子は思わず助手席を降りたくなる。
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