ワイルドで行こう
 それでも琴子は静かにそれを見届けていた。嫌じゃないから。でも、彼の手がそこで止まり、琴子の耳元にはため息。
「俺って……。ほんと、駄目な男だな」
 琴子の気持ちを無視して、自分が思ったとおりに女に触れてしまう。そう言いたいらしい。そこまで大事にしてくれたら充分だった。
「見て……。英児さん」
 彼の名を呼び、彼を見つめ、琴子は微笑む。琴子の指先はブラウスの三つ目のボタン。そこを自分からゆっくり外した。
 かすかに開く胸元、潮風に揺れる小さな白いフリル。そして彼の目線なら、ちらりと琴子の乳房の隙間が見えるはず。そしてランジェリーのレエスも。
 まるで誘惑――。ううん、伝えたいだけ。私の匂いと熱くなってしまった肌を。
「貴方がわたしに触れた日に、もう私はとっくに脱いでいるの。もう……裸よ」
「嘘だ」
 素直な気持ちだけれど、こんなに大胆に気持を伝えたことなんてない。受け入れてもらっていないのかと琴子は不安な面持ちで彼を見てしまう。
 だが彼がなんだか泣きそうな顔をしている? 意外で琴子は戸惑うのだが。そんな彼も思いあまったのか、大きな手が頬に触れすぐさま唇をふさがれた。
『んっ』
 この前のように、荒っぽい口づけ。でも彼が琴子の唇を狂ったように吸いながら、琴子の髪を撫でながら吐息混じりに囁く――。
「俺も、俺もだ。もう琴子を脱がして、勝手に何度も抱いた。もう何度も抱いた」
 また胸が灼けそうに焦がれる。琴子も彼の首に抱きついて、自分から彼の唇を吸う。
「抱いて。裸にして」
 すると彼が琴子の手をひいて、立ち上がる。
「行こう」
 月明かりを背に、彼の黒い前髪も夜風にふわりとそよぐ。あの匂いが彼からも立ちこめている。そして怖いくらい夜灯りに煌めく黒目。
 行こう――が何かわかって、琴子も頷いて立ち上がる。ボタンを開けたままのブラウスの首元を押さえて。
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