ワイルドで行こう
 壁に長く逞しい腕をついて、暗がりの中、半裸の女を荒々しく囲う男。はだけたブラウスを羽織っているだけの、下着姿。下半身はショーツだけになって、素足丸出し。そんな逃げ場をなくした琴子を責めるように下から睨む男。そう『ガン飛ばす』っていうあの目。この種の男が本気で燃えた時に見せるものなのかと、琴子の胸の鼓動が早くなる。怖くなんかない。そうじゃない。その男の熱い本気がぶつかってくるかと思うと、もう胸が張り裂けそうだった。
「いいとこのお嬢さんがそんなことしたらいけないだろ」
「いいとこのお嬢さんなんかじゃないから」
 口答えをしたら、またそれが意外だったのか。あの怒り顔になる英児。でも……そんな顔、もう平気。
 そんな英児が「それなら構わないな」と言いながら、片手は壁について琴子を逃がさないよう威嚇したまま、もう片手でデニムパンツのボタンを外した。ジッパーも降ろすと、ちらりと黒い下着が見えた。女を睨んだままの男が、いきなり琴子の手を取る。そして――。今度は琴子が驚かされる。英児は琴子の細い手首を強引に引っ張り、開けたジッパーの中へと引き込んでしまったのだ。
 流石に琴子も『あっ』となる。彼のデニム、開けたジッパー、そこから覗いている男っぽい下着のそのもっと向こうに琴子の手を連れて行かれたのだから……。
「ぞくっとする」
 琴子の手を自分の一番燃えているところに連れ去った男が、勝ち誇った顔で壁に押しつけている女の耳に囁いた。
 でも、あんなに燃えさかった目をしていたのに。急に『ごめん』なんて呟いて、優しいキスをした英児。琴子の手を捕まえたまま、急に泣きそうな顔になって琴子の耳元に囁く。
「琴子の柔らかくてか細い手、細い指。これが俺の触っているのかと思うと、俺、これだけでイッてしまいそうだ」
 本当にそうなのか。琴子が思わず指を微かに動かしただけなのに、彼が狂おしそうに震える息を吐いた。
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