愛を餌に罪は育つ
顔は原型を留めておらず本当にお兄ちゃんかも分からない。


だけど中指に光る少し太めの指輪は、血に染まっていたがお兄ちゃんがいつも仕事以外の時に付けているものとよく似ていた。


仕事を始めて家を出たお兄ちゃんは、一人暮らしをしていて行事のときにしか家には帰ってこない。


最近は忙しかったらしく、今日は半年ぶりに顔を合わせるはずだった――まさかこんな形で会う事になるなんて想像できただろうか。


もう見ていられず俯き目を伏せようとした時、信じられないものが目に入ってきた。


今まで感じたことがないほど頭の中で色んな考えがグルグルと動き回り、やはり信じられない事実に辿り着こうとしていた。


衝撃的な現実を目の当たりにしたからなのか、不思議と頭の中がスッキリとし始めてきた。


ハッキリしていく事実と共に同じくハッキリしていく臭いを感じた。


部屋は血で濡れているだけではない――これ――――。



「――ガソリン」



窓ガラスが割れる音がして驚きのあまり肩をすくめ目を閉じてしまった。


焦げ臭い臭いがして急いで目を開けると部屋の中はすでに火が燃え広がり、炎の海と化していた。


立ち上がる気力も逃げる気力もなく、目に赤い炎を映し、まるで知らない人が死のうとしているような変な安堵感を胸にボーっとしていると、突然後ろから鼻と口を布のようなもので押さえられ、意識が薄れていった。


薄れゆく意識の中耳元で囁くように”素晴らしいクリスマスをありがとう”と、この場に似つかわしくないほど穏やかな声で呟かれたような気がした。






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