愛を餌に罪は育つ
力なく垂れ下がった朝陽の手を取り、そっと握った。


彼は少し戸惑っていたが、その手を振り払おうとはしなかった。



「誰にも言わない」

『――どうして?』

「どうしてだろう――私にも分かんない。その子の事を知らないから、私には本当にあった出来事の様に思えないからかもしれない」



私には関係のない事だと、心のどこかで思っているのかもしれない。


私は冷たい人間だと思う。



「私の事好きだった?」

『好きだよ、今でも――』

「本当、馬鹿正直なんだから。別れを切り出しといて現在進行形で言わないでよ」

『ごめん――』



私は持っていたワイングラスを朝陽の目の前に掲げた。



「乾杯しよう。二人で過ごす最後のイブでしょ?」



笑ってそう言うと、朝陽も柔らかく微笑みながらグラスを掲げた。


ガラスが重なる音が綺麗に響き、この部屋の雰囲気と凄く合っていた。


この時間が終われば私は光を失う代わりに、心の奥底でくすぐっている恋をもう我慢する必要がなくなる。


恋焦がれるという言葉が恥ずかしげもなく似合ってしまう程、私は一目見た彼を――南雲さんを愛してしまった。






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