愛を餌に罪は育つ
「せっかくの婚約指輪が汚れちゃったわ」



まるで自分の物が汚れてしまったかの様な言いぐさだ。


それにこの人の声――。


そう言った女性は腰を屈め膝を付くと、私の左手を取り指輪を抜き取った。



「止めッッ――」

「やっと手に入れられた。指輪も副社長も」



女は左手の薬指に指輪をはめ、頬の辺りに手をかざし微笑んだ。


その顔を見て私は息を飲んだ。


どういう、事――?


そんな――。


あり得ない――。


貧血に襲われその場に倒れこんだ。


力が入らない。


寒い――。


目線を上に向けると女は微笑んだまま私の頬に触れた。



「素晴らしいクリスマスイブをありがとう」



意識が薄れ行く中、私と同じ顔をした女が穏やかな声でそう囁いた様な気がした――。






Fin.
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