10年越しの恋
今日はバイトの日、でもあまりの体調の悪さに休ませてもらうことにした。

部屋で横になってTVを見ていても、今までならあまり気にならなかった子供の話題に反応してしまう。


その頃雅紀の家では家族を前に話を始めていた。




広いリビングで父親と母親、雅紀の3人。

お姉さんのさえちゃんは仕事で不在だった。


「話ってなんなの」


息子から改まって話があると告げられた昨夜から気になって仕方がなかった様子の母親。


「雅紀、話してみなさい」


父親は意外と冷静だった。


「瀬名との間に子供が出来た」


その響きに凍りつく空気。


「それは確かなのか?」


「昨日病院で検査受けたよ。5週目だって」


「それで雅紀、どうするつもりなの」


なんの迷いもなく言った。


「生ませてやりたい…、生んでほしいと思ってる」



「そんな簡単な話じゃないだろう、大学や収入はどうするつもりなんだ」


「大学は辞めて働く」


強い意志を込めて父親に告げたとたん叫ぶような母親の声が静けさをかき消した。


「そんなこと許されるはずないでしょ、やっと希望の大学に合格して安心していたのに。あの子、瀬名って子にそそのかされたんでしょ」


「言葉を慎みなさい」


そんな声も母親の耳には届かないみたいだ。


「だから最初からあの子との付き合いは反対だったのよ」


ここで自分まで切れたら終わってしまう、そう思ったとずっと後になって雅紀が教えてくれた。


「なに言われても俺の気持ちは変わらないから」


そう言って部屋に引き揚げた。

< 165 / 327 >

この作品をシェア

pagetop