ヒーロー
大学でも、ケントは県内有数の強豪校で柔道を続けていた。



僕はというと、受験にことごとく失敗した挙げ句、第4志望の地元の私大に通うことになった。



柔道を続けるかどうかは、僕にとってはちょっとしたターニングポイントだったけど、結局は超弱小の零細柔道部に入ることにした。



僕の大学の柔道部はというと、試合に勝つことに執着はなく、酷いときには練習に2人しか部員が現れないこともある。



ただ、部員はひとり残らず柔道が好きで、それだけはひしひしと伝わってくる集団ではあった。







試合に出れば当然のごとく1回戦で負けてしまう僕らだったが、ケントはそんな僕の不甲斐ない試合を、よく見てくれていた。



“なぁに負けてんだよ、お前”



そう言って後ろから肩を叩いてくるケントは、にやにや顔で、ちょっとムカつくけど。



帰り際に会うと、“お疲れぇ”と、いつも声をかけてくれた。







休日に町の道場を借りて、ふたりで練習したこともあったっけ。



結局は実力差がありすぎて、僕がばてて、ふたりでほとんど昔話をしていただけになってしまったんだけど。



久しぶりにケントとやる柔道は、やっぱり違う。

そんな風にあのときは思った。







ケントは大学でも何度か試合に出ていたけど、なんでも大きな怪我をしたとかで、3年の春にはやばやと引退してしまったらしい。



警察に入ると意気込んで、勉強をしているそうだ、と、ケントの叔父さんと親しい親父が言っていた。



ケントが、警察ねぇ。



似合うような、
似合わないような。



ちょっと笑ってしまったけど、ケントの目標なんだから、素直に頑張って欲しいと、そう思った。







──それから、2ヶ月たらずの出来事だった。

ケントが事件を起こしたのは。
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