私の彼氏
「さっ、それじゃあ、そろそろ店を閉めますかな」

老婆はケーキがのっていた皿をさげだした。

喫茶店代は、真由美先生が出してくれた。バーの飲み代も出す、と言われたが、それは断った。

そして、二人でM駅までむかった。真由美先生の口数は少ない。夫がゲイだった可能性があるということを知ったからだろう。

山崎は後悔していた。自分が余計な推理をたてたことを。先生を悲しませてしまった。何も言わなければ、よかったのだ。

「先生、ごめんなさい。私のせいで……」

「なぜ、あやまる? さっ、家に帰って子どもにご飯食べさすでー」

真由美は山崎に明るくそう言ってやった。

二人は、駅に向かう途中、○△公園を通った。公園の横に駐車場がある。数台の車の中に、トラックが一台停まっている。そのトラックの中に、山崎は五月と秋山を視認した。

が、そのことは真由美には知らせなかった。

行為をしているように見えた。

その後、駅で二人は別れた。

――


その日、『私の彼氏』は削除された。


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