くるった時計がひらくとき
タイトル未編集


掛時計の針を数えてみる一つ、二つ指を折って

冷たくソフトな感覚が背に耳に吹きかけられた想いを懐(いだ)かせる

冷たい冷気のここちよさ



昨日机に時計があった
でも、とうのむかしにもう消えた

かき消された記憶をたどり抜ける。
血管のワープから押し出された涙を彼女はみなぎらせた。


蔦林の潤う丘野原に、ちっぽけな古井戸があって、ふかーくふかーく閑(しずか)な星屑が濁った光をはなってる。破裂した内臓みたいにべちょりと鈍いし、気味悪い。そんな感覚が、漣(さざなみ)のように押し寄せる、立て続けに。

あれ以来、彼女の時計は壊れた時計のように氷結していた。



優しげな鳴動がそっと響く。首を左右ふりまわしても真っ暗な夜
外の冷気に包まれるなか、懐の中が温かい。

ふと優しげな鳴動が心地よい。おぼろな気だるさにはちきれんばかりの囁きが耳にくすぐったい。
「妊娠おめでとう。腹膜炎だと話していたけどどうも様子がおかしいなって思った。まさかこんなに幸せなことが待っていたなんて……」可憐な年嵩の看護師の無邪気ないたわりが、彼女にとてつもない悲壮(ひそう)を深めた。

子供を産めない年齢だからだ。

ぬかるみに顔をうずめた彼女は簡素な室内を仰ぎみる。

カーテンに仕切られた病棟を蛇行する目は、時計の針が動き回るのを眺め、はじめて身を乗り出した。
1日が始まる。体をおこす彼女と針は、時間を更新する。ぐるっと廻(まわ)って同時進行。

彼女と針は感情の有無は違えど、彼らを朝が迎えてくれるのはおんなじだ。時間はむごい。

(親なんて知らない。わたしには母がいるけどその人は母じゃない。いつもうわごとばかり言って振り向きもせず、夜な夜な素行悪い仲間連れ込んで非力なわたしにも無理やりつるませたんだ。
誰の子と考えるゆとりもない。
孕(はら)んだ気がして話して見たけど相手にもしてくれなかった。
世間の辛辣な目に圧迫されて年偽って回りくどいこと話したけどやっぱり見透かされたんだ。当たり前だよね。訳も判らず腹が立っちゃって。でも、悔しい。
中絶だといって親に承諾だなんて夢のような話。
こっちも精神的に限界だ。)気弱な自分が情けない。
子供を持つことが、親を持つことが、こうも恥ずかしいものである想いをくすぶらせながら病室を空かした。
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