ライフ・フロム・ゼロ


清香という名前があまり好きでなかった。

字面だけを見た初対面の人は多くの場合
「きよか」、と読む。

だからその度に「さやか」です、
と訂正しなければならなかったのが面倒だった。



中小企業務めの父さんは、パチンコ狂いだった。


母さんはそんな父さんに文句ばかり言っていた。


時々父さんは母さんを殴り、
母さんはその後私を殴り、
それから泣いた。

ごめんね、ごめんね、と。

だったら殴ったりしなけりゃいいのに、
と子供ながらに思ったことはあるけど
私は彼らの一人娘で、

それなりに父さんと母さんを愛していた。

父さんも母さんも、

近所の人や会社の人からは
「いい人たち」で「おしどり夫婦」
として評価されていた。
< 2 / 182 >

この作品をシェア

pagetop