ライフ・フロム・ゼロ
清香という名前があまり好きでなかった。
字面だけを見た初対面の人は多くの場合
「きよか」、と読む。
だからその度に「さやか」です、
と訂正しなければならなかったのが面倒だった。
中小企業務めの父さんは、パチンコ狂いだった。
母さんはそんな父さんに文句ばかり言っていた。
時々父さんは母さんを殴り、
母さんはその後私を殴り、
それから泣いた。
ごめんね、ごめんね、と。
だったら殴ったりしなけりゃいいのに、
と子供ながらに思ったことはあるけど
私は彼らの一人娘で、
それなりに父さんと母さんを愛していた。
父さんも母さんも、
近所の人や会社の人からは
「いい人たち」で「おしどり夫婦」
として評価されていた。