新撰組のヒミツ 壱
己が持ちうる中でたった一つの命を懸け、君主への忠誠と義を持ち、勇猛果敢に戦場を駆る――。


そして最期は待ち受ける死を恐れず、心服する君主の為、鮮やかに今生の命を散らしたいという、とても淡い願いを抱いた。


家臣とはこのような気持ちなのだろうか。君主の為なら、この命すら惜しくないと思える程の気持ちが。


家族や友、愛する者も――全てを後ろに残し置いて、ただ一人君主の為に自分という存在を賭けてみたくなるのだ。


これは無論、友情ではない。親愛の情でも恋慕の情でもない――君主への陶酔。


(……貴方が最後まで戦ったように)


強い眼差しに確たる意志を乗せ、小さくなった土方の背中に向ける。


(私も最後まで戦いたい……)


背中を向けて、床に置いてあった竹刀を手にとった。真っ直ぐに構えると、一撃一撃に、為せる最高の技の巧緻を込め、鋭い呼気と共に振り下ろす。


(この、世界で)









稽古が終わり、井戸で水を飲んでいた時だ。井戸の向こう側から、見慣れた黒の着流しを着た山崎が、こちらの方へ歩いてくるの見えた。

< 273 / 341 >

この作品をシェア

pagetop