新撰組のヒミツ 壱

夜間

決して重くはなかったのだが、人一人を背負っていたせいか、山崎が屯所に着いたのは、ほとんどの隊士が寝入った後であり、前川邸内は静まり返っていた。


部屋に入る瞬間、背後から呼吸が詰まるほどの殺気を感じ、息を呑んで振り返ると、一瞬だけ青の残滓を見た気がした。


(なんやねん今の……)


指先が冷たくなり、意識せずに身体が震える。ここまで強烈な殺気、隊士で発せられるのは沖田、永倉くらいだろう。


(あないなおっそろしい殺気……

――人間……か?)


恐ろしくなった山崎は、背中にいる光を庭の殺気から庇うようにして、部屋に入った。それと同時に殺気は散って消える。


……背中に嫌な汗をかいてしまった。その正体は気になるが、今は光の方を優先したい気持ちが勝っている。


一旦、光を床に寝せると、山崎は畳んであった二人分の布団を広げると、衣擦れの音を立てないように、寝る準備をし始めた。


「……ん――……」


床は身体が痛いのか、苦しそうに声を漏らす光を抱き上げると、布団に寝かせて掛け布団を腹の辺りまで掛けた。


この際、着物のままで着替えていないが、山崎にはこれ以上どうしようも出来ないため、そのままにしている。


しばらく光の寝顔を見つめていた。いつもは大人の顔つきをしているというのに、力が抜けた顔は、余りにもあどけない。


頼むから……そのまま起きるな。気付いたら全てが終わっている状態であってほしい。


そう、強くも弱くもない彼女に願う。


(風呂でも入ってくるか)


無意識に彼女へ伸びた指を握りしめ、ざわめく胸を押さえると、黒の夜着を脇に抱えて風呂場に向かった。


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