ブラッディマリー
 

 和は首筋に手を当てた。確かに、あの澄人に喉を裂かれ、しこたま血を啜られた筈。


 出血のせいで熱くなっていた喉は、今はもう傷の跡すらなかった。



「……万里亜の兄貴が来たんだ」



 和が掠れた声で呟くように言うと、万里亜がびくりと身体を震わせる。その細い肩を離すまいと、和は万里亜を抱き寄せた。



 いや、万里亜を落ち着かせる為などではない。


 万里亜を守るふりをしながら、自分が彼女に縋っている。



 その証拠に、落ち着いて言葉を紡ごうとする意識の裏で、さっき万里亜に食らいついたことへの罪悪感が、がんがんと眼球の内側から焦らせるように叩いて来る。



「俺の実家のことを、聞かされた──それから、多分……咬まれたんだと思う」


「和……の?」


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