ブラッディマリー
焦燥する和の脳裏に、おぼろげな記憶の中の、昔の母と俊輔の声が弾けたように響いた。
俊輔を見つめる和の眉が、疑わしげに寄せられる。その視線を受けて、俊輔は哀しそうに微笑った。
「愛などないと、そう言ってやった。……そうだよ。俺はただの人間でしかない、控え目で従順な女……敬吾の妻を──君子を、愛してた。だから君子に黒澤の子どもを産ませてやってくれ、っていう敬吾の言葉に乗ったんだ」
『判ってる。俺もあなたを愛してるわけじゃない』
役目だから、と。そんな冷徹で無感情なヴァンパイアの、誰も想像できない個人的感情。
それは一瞬で、理屈ではないところで和に全て悟らせてしまう程──人間くさい男の感情だった。
「……敬吾と君子が別れたことは、TVのニュースで聞いて知った。やっぱりな、と思った。だから、和がいない時に何度も君子に会いに行ったよ。心配で、ね」
.