ブラッディマリー
 

 その瞳があまりにも甘やかで優しくて、和までもが金縛りに遭ったように動けなくなる。


 が、澄人の瞳の紅は一瞬にして、狂気に染まった。





 びしゃり





 雨の音を遮って聴こえたそれは、血が迸る音。



 赤く、黒く染まった視界に遮られて、和はその瞬間を目にすることが出来なかった。



 飛び散った血が自分に張り付く音だったと気付いたのと、胸の谷間から血まみれの手が生えた万里亜の姿を見たのとは、ほぼ同時だった。



「……避けなかったか。いい娘だ、万里亜……」



 心底おかしそうに笑い出した澄人は、万里亜からその手を引き抜く。支えを失った万里亜は、ふぅ、と息をつくと、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。



 その綺麗な紅い瞳は、倒れ込むその瞬間まで、真っすぐに和を見ていた。









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