ブラッディマリー
 


 父親と母親が離婚してから、妻として堂々と振る舞い始めたその女。和と15しか違わないその女は、尚美といった。


 和には、尚美が人間ではない何か別の生き物のように見えていた。和の母はこの尚美の存在に泣かされ、床に伏せって動けなくなる程病んでしまったからだ。会ったこともない女をそこまで追い込めるのだ、悪魔のような女なのだと。



 けれど尚美は、呆気ない程ただの女だった。


 母を捨てた父親と、母から夫を奪った女。



 その二人に対して、どんな酷い復讐が出来るかと考えた和は、顔を合わせる度媚びるような視線を向けて来る尚美を見ながら、短絡的な結論に至った。


 今思えばその視線は、水商売の女なら必ず持たねばならないもので、そして後妻に入った家の息子に嫌われない為の、彼女の必死な処世術だったのかも知れなかった。



 けれどねめつくようなその女の視線は──少年の和に浅はかな衝動を促すだけだった。




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