ブラッディマリー
 

 尚美とは数年に渡って関係があったとはいえ、そう毎晩毎晩抱き合っていたわけではないのだ。



 心臓だけは隠せない……と言った万里亜の身体がどこまで人間の女のそれと同じなのかは判らないが、言われてみれば、彼女がそういう理由でコトを拒んだことはなかった。


 和は女の事情などすっかり忘れていたことをひそかに恥じ入って、俊輔には「判ってるよ」と頷いた。



「あ、それから和。これ持ってろ」



 俊輔は続けて、カウンターの中から小さな瓶を取り出し、和に示す。赤いカプセルが半分程入った瓶を受け取りながら、和は首を傾げた。



「何これ」


「鉄剤とか入ってる薬。貧血んなったら使え」


「え? 誰に?」



 それには答えず、俊輔は和に背を向けて、乾いたグラスを棚に並べる。

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