戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


専務から離れてひとまず寝室へと逃げ込むと、イチから作り上げる為の準備としてシャワールームへ向かった。



今日はとっておきのお品である、ジュリークのカモマイルシリーズを手に取り、黒髪を労わるようにヘアケアをいつも以上に行う。


その流れでボディケアは、ハウスオブローゼのOh!Babyスムーザーとシャネルのボディクリームを手にした。


頭のてっぺんからつま先まで、ぬかりなくお手入れするのは女子として気分は上昇するものだが。


こうして丹念なケアを行うのは、カレが居たとき以来とピカピカになっていく自分に少々苦笑するばかり。


バスタイムを終えるとネイルに取りかかり、カラーはピンクベージュ基調に抑えて“目立たないけどケアしています”風を装う。


つやつやになってゆく身体と裏腹で、虚しいとか何をしているのだろうかという、一切の負のオーラは封じ込めるしかなかった。



「どうするつもりですか?素人がひとりで」


ことの始まりは、専属スタイリストさんを呼ぶだの有名サロンやブティックへ向かうと、疲れるほどに譲らなかったロボット男。



どこまでも自分好みに仕上げたいのか、今回ばかりは時間もお金も厭(いと)わない様子だった。


確かに考えれば、彼がこれほど意気込む理由がよく分かる。私は逢瀬の為の“目くらまし”であるからだ。



「…人にむやみやたらに触られるの、嫌いなんです。
自分でどうにかしますし、ご安心下さいませ。専務」

「――怜葉さん、いい加減に…」


「着替えますので入室不可です、悪しからず!」

頑として仕立て上げるなら完璧にと、イチイチ煩いロボット男の意見はスルーすることにした。


いい加減にして欲しいのはコッチだと言わないだけ、むしろ感謝して欲しいくらい。


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