戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
無機質なその箱型の中で感謝したことといえば、日中のバタバタ時にもかかわらず誰も乗っていなかったことだけ。
逃げも隠れもしないというのに、ロボット男の手が離れないまま連れられて来たところ。
それはなぜだか上層階となる、いわゆる重役室の連なるフロアだった。
到着音とともにエレベーターを出れば合図するように、グッと私を引きずるほど強引に前を行く彼。
当然のごとく私の方は、ヒールゆえ歩く体勢は覚束ないものだ。
その中で視界に入る、地上を見下ろせる窓際の景色や閑散としすぎたフロアの様相からは、とても同じ社内に居ると思えないほど静まり返っている。
乱雑に積み上がった書類に埋もれ、鳴り続ける電話の応対やPCのタイピング音に日常囲まれている、まさに一介のOLとは無縁な空間だわ。
なんとなく感心していても、それは虚しさと立場が明確になるだけ。
とはいえ私のことをまったく構わずグングン進むあたり、妙なトコロでロボット男らしさを発揮する男に呆れたくもなった。
「…何なんですか」
「良いから。ついて来て下さい」
「…、」
貴方は良くても、コッチは一体なにが良いのか分からないわ。
イライラも増して冷たい声を響かせても、それをピシャリ跳ね返されては押し黙るだけだ。