戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
今日はお洒落なお店だっただけに、価格も高いであろうと密かに心配していたけど。
実際はお値段もそこそこリーズナブルで、何より大好きなお酒の種類の多さはとても気に入った。
「ねえ怜葉ー、…もう一軒行かない?」
「私は良いけど…、」
「じゃあ決まり!実はすぐ近くにね、友だちの友だちのハトコが経営してるバーがあるの。
さっきはカクテル飲んでいないし、デザート分が足りないのよねぇ」
「…うん、任せるわ」
ちなみにスプリッツァーのあと食前酒を3種類と赤ワインのグラスを3杯頼み、メインでワインボトルを1本開けるのも易い私たち。
それでいて未だ飲み足りないと感じているのだから、今後は酒豪の道をこのまま突き進むに違いないと思う。
ただ“カクテルをデザート”と言い切る由梨の方が、間違いなくザルであると叫ばせて頂きたい。
せっかく大通りへさし掛かっていたのも結局――彼女の案内によって再び、来た道を帰る羽目となった。
一歩路地へ入ると、ビルとの隙間から吹く夜風が頬を撫で、どこかお酒での火照り加減を和らげるよう。
しかし、都会のビル風特有の生ぬるいその風が残念なことに、ロボット男の温度を思わせたから、せっかくの上々な気分もぶち壊しだ。
――何より、こんな時にまで忘れられない男の存在が愛しく、またひどく憎らしい存在に感じていた。