戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
じわりじわり、押し寄せる虚しさに苛まれていると。テーブルに置いてあった携帯電話の着信音がけたたましく鳴り響く。
泣きそうな心を叱咤しながらそれを手にすれば、1通のメール受信を知らせている。
携帯を操作して表示されたその内容で。涙腺のゆるみはまた、我慢の度合いを越えてしまった…。
【伝え忘れましたが明後日、朱莉と一緒に食事をしましょう――
朱莉が怜葉さんと会いたいと言ってます。急ですがお願いします。
何より、今後ひとりで無理して泣かないで下さい。良いですね?】
無機質な画面に映し出されているのは、メール画面からもその冷淡さが伝わるロボット男からの文面。
ポロポロ零れる涙を拭うのも忘れて、それを凝視することがどれほど惨めか分かっているのに。
「ひ、どい男…っ」
――その男に抱かれた私が軽口を叩ける立場でなければ、彼を皮肉る権利だって一切ない。
ただ朱莉さんと会わねばならないという現実からは逃れられず、ハハと乾いた自嘲笑いをする外なくて。
専務に“抱かれた”事実と痕が未だ残る身体からは、サッーと血の気が引いてゆく気がした…。