戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


あれから口を閉ざしたままの、ロボット男の様子が気になりながらも。振り返らずに進む中で耳に届いた――“彗星…”と呼ぶ弱々しい声。


頬を濡らし始めた涙をカバーしてくれる存在の誘い出しに、今日は何度となく感謝してもしきれない。



もしもあの場面で、あの場を立ち去れなければきっと。私は最後の悪あがきをしたに違いなかったから…。



「…今日は、もう泣かないの?」


「…うん、大丈夫。ありがとう」

歩き始めてから5分ほど経つと、肩に回していた手をそっと離してくれた悟くん。


大通りを行き交う車と立ち並ぶ店の煌々とした灯りを頼りに、屈んでこちらの顔を窺って来る。


レストラン前ですぐにタクシーを捕まえなかったのは、留まるのが得策ではないと彼も分かっていたからだろう。


朱莉さんの泣き始めたの理由も分からぬまま、その場に未練を残して去っていたのだ。



決してアルコールに煽られた訳でもないけど。フラフラと足が覚束なかったところからして、まだ動揺しているに違いない。


ただロボット男が追って来ないことから、朱莉さんを抱き寄せて宥めていると判断出来る。


ようやく始めから無謀な恋を自覚したという、虚しさと息苦しさで包まれると自らの感情が見えなくて。


あまりに考えるべきことが山積みすぎる…。ロボット男たちから離れた今だって、何に泣けば良いかも分からない。


< 312 / 400 >

この作品をシェア

pagetop