戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


となれば、ただこの事実を受け入れるしかなく。そのせいか、頬を伝っていた涙も瞳もいつしか乾いてしまったのだろう。



「もう、…疲れました」

何も上手く出来ない自身の拙さを棚に上げ、よくそんなことが言えたものだと思う。



だけど、あまりに想いが立ち消えないまま、もうロボット男の元にはいられない――それだけは確かなこと。


すると、告げた顔があまりに情けなかったのだろうか。彼まで悲壮な表情を浮かべるから、ひどく申し訳ないことだと思えた。



「怜葉ちゃん…、お金なら手当て出来る――離れたらどうかな?」

「…でも、悟くんにこれ以上」


「――それが出来る身内がいるよね」

「…ああ、そっか――」

悟くんの突然の誘いに、思わず言葉を詰まらせた刹那。


乾いた笑いを浮かべられたのは、最悪の答えさえも今を振り切る道標(みちしるべ)に感じられたせい。



働いている会社を辞めることは簡単でも。元彼の件で専務が用立ててくれたお金はとても返せない――



だからこそ、それを見事に清算できる所へ頼るしかない。この十数年あいだ、逃げて逃げて来ていた“甲斐家”へと…。


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