戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
このトリーバーチの新作パンプスを履いての行動は、とかく勝手だろうが仕方ないか。
お洋服にしても、マーク・ジェイコブスの最新ワンピースを着ているのだが。
さらに言えば、ヘアはサラッとなびくストレートヘアにシフトして、すっかりヤツのご希望色に染まっている私。
意地でどうにか自己主張箇所を探せば、フルラのシンプルなベージュバッグだけとは頼りないものだ。
なんとも複雑な心境でも、変わり身の早い自身を悔いて溜め息を吐いた。
そんな気持ちを追いやって、由梨にメールしようとバッグに入った携帯電話を取り出せば。ぴかぴかと小さく着信ランプが光っている。
内勤者のクセとでもいうのか、勤務中はサイレント・モードが常のためにモードの切り替えを忘れていた。
すぐさま携帯の履歴チェックをすれば、由梨からの着信1件以外はなんとロボット男からではないか。
今までに着信履歴に並んだことのない、“高階 彗星”という名前の羅列を目の当たりにし、それだけでグッと胸が詰まった。
ご立腹であろうアノ男は果たして、私の勝手さをどう思うだろう?――これこそ浅ましい疑問と、分かっていても考えてしまう。
何かにおいてわずかに期待している自分をまた苦笑すると、今度こそ本当に着信が入ってきてしまった。
それもタイミングの良いことに、ロボット男の名前が携帯画面で映し出されているから狼狽えるのも無理はない。
ええと…、これは出るべきか、いや大人の義務よね。
あれこれ言い訳をしながらも、デッキへ出るのが先だと席を立つことにした。