イケメン御曹司の秘密の誘惑
先ほど比奈子を振り払った場所に向かって走る。
本当は、聞こえていた。
耳からではなく、心へと。
比奈子が『行かないで』と涙ながらに叫ぶ声が。
気付かない振りをして彼女を棄てるように立ち去った。
結婚はするが、お前とも別れない―――。
そんな事が出来る訳がない。
そんな馬鹿げた事に彼女が同意するはずないじゃないか。
比奈子は弱い女だ。
強がりの陰にいつも硝子のような傷み壊れやすい心を隠し持っている。
俺が冷たくする度にそれを一つずつ壊し、一人欠片を集めて咽び泣く。