触れることもできない君に、接吻を
[ ショカイ ]
俺は必死で走っていた。
勝手に流れてくる涙を制服の袖で拭いながら。

長い階段を息切れしながら登りきり、こぢんまりとした公園に到着した。
いつもは誰もいないのだが、今日は先客がいたようだ。

清潔感溢れる髪を垂らして、そいつはぼうっと空を見ていた。
一番日当たりのよいベンチに座り込み、俺の気配を感じてかゆっくりとこちらを振り向いた。

初めて見る顔だった。
予想以上に整った顔をしていて、一瞬見惚れてしまいそうになった。

大人っぽい容姿をしていたので、なぜか公園に不似合いに見えた。
膝丈のふんわりとしたワンピースの上に黒いコートを羽織るという服装で、少しシンプルすぎかと思ったが、その女はしっかりとその服を着こなしていた。
というよりも、シンプルな服は女の魅力を引き出しているかのように思えた。

女は肩まである髪を片手で弄りながら、不思議そうに大きな目でこちらを見てきた。
声なんてかける必要はなかったのだが、気付いたときにはもう声を発していた。
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