触れることもできない君に、接吻を
「お前……誰?」

返事の代わりにやんわりと彼女が微笑んだのが分かった。
優しい、本心からの微笑みだった。
俺は心が溶けたような感覚を覚えた。

それと同時に、さっきまで自分が泣いていることを思い出した。
見られてしまってはいないかという恥ずかしさに駆られながら、涙の跡が残っていないかと必死で目の下を制服の袖で擦った。

「なんで泣いてたの?」

そいつはまるで鈴が鳴るような声で言った。
それは呟きに等しかったが、無駄な音がないこの場所では十分に俺の耳に届いた。

「……お前には関係ないだろ」

失礼なことを聞く奴だなと、おれは低く唸るように答えた。
するとそんな俺の態度に驚いたのか、そいつはびくりと体を縮ませた。
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