触れることもできない君に、接吻を
[ カンワ ]
「……あ」

彼女を見た途端、俺は思わず声をかけるのを躊躇ってしまった。
まるで泣いているように見えたのだ。
涙は流していなかったものの、どことなく悲しげで、寂しげで。

「あ、あなた……ちょっと、なにその格好!」

そう僕がたじろいでいると、彼女がこちらを向いた。
そしてさっきの表情とは一変し、まるで母親のような言い方でこちらに近付いてくる。

「え……あ、いや、別に、そこらへんで転んだだけで」
「そうなの? ドジだね。ていうか、今授業中じゃないの? まさかサボり?」

俺は母親口調の由梨に曖昧にはにかんでみせると、わざとらしく空に視線を移した。
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