触れることもできない君に、接吻を
俺は手に変な汗を握っていた。
まだ冬だというのに、異常なほどに汗をかいている俺。

ああ、言わなければ。
だけど言おうとすればするほど、胸がはち切れそうに痛む。

でも、どれが一番いい選択だ?
誰も傷付かずに済むには、どの言葉を選べばいい?

「ああ、なんか家族がお前のことを探してくれているらしいぞ。やっぱりお前が、あの由梨って奴らしい」

俺は勢いよく顔をあげると、笑顔を作ってそう言った。
だが同時に罪悪感が俺の体を駆け回る。

嘘をついてしまった。
彼女を傷付かせないためとはいえ、嘘をついてしまった。

後悔はなかったが、後ろめたさが残っていた。

だが彼女は、微塵も嬉しそうじゃなかった。
むしろ怪訝そうな顔をしている。

「由梨……? 嬉しくないのかよ……?」

俺が恐る恐る聞いた。

まさかこいつ、本当のことを知っているのではないか。
だから俺が嘘をついていることを知っているのではないか。
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