触れることもできない君に、接吻を
俺は誰にも気付かれないように溜め息をすると、静かに目を伏せた。
そしてさっきの百十五ページのことを思い出す。

一文字も残らず、黒いペンで塗り潰されていた。
そのうえ死ねやら馬鹿やらの落書きが絶えない。
そのページに限らずだ。

犯人は分かりきっている。
でも、よくこんな何百ページもある教科書にいたずらをしたものだ。
何本かのペンが使い物にならなくなっただろう。

由梨のことを心配するのもいいが、自分の心配もした方がいいかもしれない。
俺は自分のことを鼻で嗤ってみせた。

それが俺にできる、自分を奮い起こす行為だった。
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