触れることもできない君に、接吻を
「まあそれはいいとして、久本。話を聞いていなかったのかね。教科書を開いて」

先生がそう言いながら、教卓の方へと歩いていった。
俺は少しほっとしながら、机の中の教科書を探した。

「えっと……先生、何ページですか?」
「全く無礼だな、久本は。百十五ページだ」

俺は教科書を机の上に置き、ページを捲り、目的のページを開いた。
だがそこには驚愕の光景が広がっていた。

「あ、先生、すみません。教科書、忘れた、っぽいです」

俺は小さく手を挙げると、たどたどしくそう呟いた。
先生が一瞬驚いたような顔をするが、すぐに元に戻り、分かったと言った。
< 56 / 83 >

この作品をシェア

pagetop