触れることもできない君に、接吻を

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「久本、なんか暗くなったよな」
「ていうか話の輪に入ってこなくなったよな」
「だよな。でも、別にいいよ。どうせあいつのこと、好きじゃなかったし」

そんな冷たい視線と抑えた声を感じながら、俺は教室を足早に出た。
だけどまだひそひそとした声は俺を追いかけてきた。
まるでその声を振り払うかのように早足で廊下を歩き、俺は自分の靴に手をかけた。

そのとき、ちらりと靴の中に何かが入っていることに気付いた。
気になって靴の中に手を入れてみると、そこには紙切れが入っていた。
そしてその紙には、乱暴な字で「死ね」と記されていた。

俺は溜め息と共に肩を落とした。
こんなことを仕出かすのは、あいつしかいない。
クラスで一番からだが大きくて、力が強くて、ガキ大将みたいな顔をしている裕大しか。

「……やっぱ俺、こうなるんだ」

きっと明日から繰り広げられるであろういじめに、俺は耐えられるのだろうか。

俺は紙切れをぐちゃぐちゃに丸めると、近くにあったゴミ箱に投げ入れた。
だが丸まった紙切れは見事にゴミ箱の角にあたり、跳ね返る。
俺はわざとらしく目を伏せると、二度目の溜め息を漏らした。
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